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はじめに
1976年の夏,米国フィラディルフィア市のホテルで開催された米国在郷軍人会(The Legion)の出席者,ホテルの宿泊者およびホテル周辺の通行者に突発的な原因不明の重症肺炎が発生し,多数の死者が出て全米を騒然とさせた。
微生物学(細菌,真菌,リケッチア,ウイルスなど),毒性学,病理学,疫学などの専門家が一堂に会し原因物質の究明を精力的に行った結果,元来は土壌常在菌の一種(後にレジオネラと命名)が,空気調和の設備であるクーリングタワーの冷却水で増殖し,飛散したため空気感染を起こしたことが判明した。この事件は人工環境における空気の細菌汚染防止策の重要性をクローズアップさせた。
1980年代からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症が病院を中心に増加した。MRSAは院内感染の原因菌のみならず難治性感染症の起炎菌でもあり,MRSAによる院内感染防止策が検討された。さらに近年,MRSA感染症の特効薬であるバンコマイシンに耐性を示す腸球菌(VRE)による感染症が問題となっている。
人が生活する室内空気中に浮遊する主な細菌はブドウ球菌であること,病院内で検出される黄色ブドウ球菌の50%以上は抗生物質耐性菌であることが知られ,MRSAの感染径路として空気感染も考えられる。
近年,医療機関,教育機関,老人ホームなどで結核の集団感染が多発し,その対策が公衆衛生のみならず社会的にも問題となっており,空気の細菌汚染制御,空気からの感染防止の重要性が再び指摘された。
空気の細菌汚染制御を行うためには空気の細菌汚染の実態を調べる必要があるが,この空気中の細菌を測定する測定法が現在定められていない。世界的にはISO(世界標準機構)がTC/209で環境の微生物汚染防止を取り上げ,この中で空気の細菌測定法を検討している。
本稿では,空気の細菌汚染が原因で空気感染を起こすレジオネラ,結核について集団感染例をあげて説明するとともに,空気中の細菌の測定法につき概要を述べる。
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