発言席
政治と公衆衛生
大谷 藤郎
1
1(財)藤楓協会
pp.677
発行日 1993年9月10日
Published Date 1993/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900742
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7月18日の衆議院選挙ほど,どの候補者に投票するかを迷ったことはない。今までの選挙では選挙民に耳ざわりのよい公約ばかりで「だまされるな」とか言われて迷ってはきたが,それでもともかく「自民党なら自民党」「社会党なら社会党」とそれぞれの党のイメージはそれなりにはっきりしていた。ところが今回は各党の政策や生活の公約の争いは鮮明でなく,どの党も「政治改革をやる」のオンパレードで,国民の目には「政治が現実の社会をどう舵取りしてくれるのか」がわかりにくかった。いや,わからなかった。テレビや新聞を見ていると,いつの間にか「新党か,既成政党か」との抽象的な固定観念のようなものばかりがでてきて,結果は圧倒的な新党の躍進となった。
私個人の希望を言えば,医療福祉について各党の主張をもっと知りたかった。ところが各政党が国民の身近な諸問題について声高に主張することをしないばかりか,マスコミもそのことを追求しようとしなかった。マスコミの責任だけではない。国民も各党の真面目な主張が報道されればソッポを向きがち,今回のように政治家の離合集散が派手に報じられれば一応テレビに釘づけになるという体質であることもまた問題だ。日本の政治が悪い原因として当の政治家ばかりが批判されているが,それを選んでいるのは私たち国民自身であり,責任の一端があることを忘れてはならぬ。
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