発言席
理解することからの第一歩
宮下 忠子
1
1東京都城北福祉センター医療相談室
pp.675
発行日 1991年9月10日
Published Date 1991/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900298
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「もうひとりの自分とはお別れです」とまだ青年の面影が残っているKさんは語気を強めました。日雇労働者の多く住む街で,7年間偽名を通して日雇い仕事に従事し,体を弱め右肺湿性胸膜炎となり,やっとの思いで辿り着いた福祉センター。その中にある健康相談室で受診し,港区にある病院に緊急入院となったのでした。検査の結果,結核性の病気であることが判明し,今は胸部に管を通して液を出し手術を待つ身です。
慌しかった短い時間に,彼は自分の人生をもう一度問い直す時間をやっと得たのです。今回,彼の受けたショックの中身は多様でした。健康への過信が崩れたこと,生死をさ迷うまでに病状を悪化させ孤独で無力だったこと,そして結核に感染していたこと。やっとベッドに身を横たえ静かに過去を回想したとき,過去の生き方の反省と同時に,正直な自分に戻りたいという思いが起きたと,その決意の強さを語ってくれるのでした。
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