特集 アルコール依存症者へのケア
アルコール依存症者の精神病理とネットワーク・セラピィ
手塚 一朗
1
,
斎藤 学
1
1東京都精神医学総合研究所社会病理研究室
pp.621-627
発行日 1989年8月10日
Published Date 1989/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207785
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I.はじめに
地域でアルコールの問題に取り組んでいると,それがアルコール依存症にかかった一中年男性(アルコホリック本人)の問題に留まらず,実に多彩な出現様式をもつものであることがよく分かる。
1人のアルコホリックの傍らには,なんとか酒を止めさせようと必死に頑張る妻がいる。その妻は学校に行かないでシンナーを吸ったり親に暴力をふるう年頃の息子の母親であり,また痩せ願望にとらわれて過食拒食を繰り返す青春期の娘の母でもある。この一家を取り巻く人間関係の輪のなかのは,いつまでも息子を子供扱いするしかできない(アルコホリック本人の)母親がいる。また,アルコホリック本人を見限って全く近寄ろうとしない兄弟たちがいる。本人には知られないように,妻を離婚させようと熱心にすすめる妻の姉妹たちがいる。妻の実家には大酒家で酒乱だった父はすでに肝硬変でこの世にはなく,うつ病の母が,実家の帰って自分の面倒をみるようにと,不幸が顔に張りついた表情で毎日愁波をおくってくる。等々。
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