特集 第16回自治体に働く保健婦のつどい集録
草の根の活動を保健婦の手で
―基調講演―地域に根ざす保健活動—健康の問題と草の根運動
池上 惇
1
1京都大学経済学部
pp.484-492
発行日 1984年7月10日
Published Date 1984/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662206851
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生きるのに精いっぱいで孤立化して
日本でそもそも草の根などという言葉がはやり出したのは,70年代の後半からで,革新自治体がかなり後退し始めた時期に当たっています。60年代の後半は,日本ではかつてないほどの地方自治を守る,あるいは地域においてさまざまな運動が盛り上がった時期です。その頃は公害問題が日本国中を覆い,革新団体などが"地域をつくりかえよう美しく"なんていう歌を歌っており,私どもの心をとらえ,日本はかわるのではないかという大きな期待感がありました。
草の根という言葉はなにも急に言われ始めたのではないのですが,70年代の中頃から言われ出した草の根というのは,人間が非常に孤立していることに対して言われ出したのです。不況が深刻になり,1人1人が生きるのに精いっぱいであった。共働きも非常な勢いでふえ始め,いまでは,10人のうち6人は共働きと言われています。けれども賃金が上がらない。これだけ生活が苦しいのにどうして立ち上がらないんだという素朴な疑問が出てきました。そういう実態を調べてみると,ほとんどの場合忙しすぎて,人間がそもそも集まることもできないということがわかってきました。
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