マレーシア・タイの保健問題
マレーシア・タイを訪ねて(2)
豊川 裕之
1
1東京大学医学部保健学科疫学教室
pp.415-419
発行日 1974年6月10日
Published Date 1974/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205489
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タイ国Thailandは人口約4千万,国土面積は日本の約1.4倍の王国である。私達がマレーシアからこの国の首都バンコックに着いた時,出迎えに来てくれたキンカルンチ医師――日本留学15年の経歴があり,日本語を自由に駆使できる女医さん――が私達に,対日感情が極度に悪いので夜間の独り歩きはしないようにと注意してくれた。その注意は予備知識として頭に入っていて,やっぱりそうかと思ったのだが,街行く人々の視線からそれほどの悪感情を汲みとることができないので,妙な重圧感が生じた。ちょうど奄美大島に調査に行った時,猛毒のハブが心配だったが,そのハブが居そうなところではハブ咬傷は起こらず,こんなところには居ないだろうというところ,たとえば,便所や物置き小屋などでハブに咬まれるということを注意されて,どこもかしこもハブが居て,咬まれるのではないかという不安に陥ったこととよく似ている。そして,クアラルンプールのあの開放的な好意がなつかしく思い出されるのであった。しかし実際には,夕食後の散歩中に,木炭のような黒い色素で上着を汚された小さな悪意の外は,何千万羽と密集して電線にとまっているツバメの白い糞を直撃されたことぐらいで,どこでも親切に応対された。
タイでの協力研究者であるナトー教授(マヒドール大学病理学)との調査計画を数次にわたって検討している間を縫って,同教授が推す調査候補地の1つラジブリRajiburiを訪ねることができた。
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