連載 身近かな栄養学・2
栄養の普及
小池 五郎
1
1女子栄養大学
pp.36-40
発行日 1968年9月10日
Published Date 1968/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204266
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
「人々の栄養状態をよくする」ということは,保健婦の仕事のなかでも,かなり大きな比重を占めていることでしょう。何といっても栄養状態の良否が「健康を保つ」ことに大きな関係をもっていますから,これは当然のことです。しかし,「この方面の仕事で,指導の実をあげるのは非常にむずかしくて,なかなか思うようにいかない」ということも,保健婦はよく心得ていると思います。簡単に「食生活を改善する」などと口ではいっても,人々の食生活のじっさいは,むかしからの伝統と因習の中でいとなまれていて,経済や嗜好にも支配され,まだ嘴の黄色い保健婦が黄色い声を一生懸命はりあげてみても,ビクともしない頑固さをもっているからです。対象となるべき人びとは,伝統・因習・経済などからなる巨大な岩盤の上にアグラをかいていて,下の方にいるわれわれが微力をつくしてその岩盤をゆり動かし,彼らをふり落としてこちらと同じ平面に下りてこさせようとしても,ビクともしないように感ぜられます。わずかに,「病気」という爆薬が足元の方でボカン・ボカンと爆発したときに,それにおどろかされて下りてきたり,「やすくておいしい○○の食べ方」などということをうたった梯子をかけてやると,何人かの人がわずかな関心を示して,重い腰を持ち上げて下りてきてくれたりする程度です。
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.