特集 肥満をさぐる
やせ薬とその功罪
久保 文苗
1,2
1関東逓信病院薬剤科
2共立薬科大学
pp.28-30
発行日 1967年5月10日
Published Date 1967/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203925
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はじめに
以前には,ふとっているということが健康の代名詞であるかのように考えられたものである。しかもそれは単なるしろうと考えだけでなく,臨床医さえも患者(ことに結核患者など)になるべくふとるように必要な注意や勧告を与えたものである。しかし近年はこの考え方が変わってきて,ふとっていることの害がいろいろの面で強調されるようになってきた。それは統計的に肥満者の死亡率の高いことが知られてきたからである。肥満者で正常体重の人にくらべて特に死亡率が高いのは糖尿病であり,心血管系の疾患がこれにつぎ,さらに事故死や癌による死亡率も高い傾向を示している。しかし,ふとっているということには悪い面ばかりがあるわけではなく,肺結核による死亡率は明らかに正常体重の人より低いし,肺炎などによる死亡もいくらか低いようである。一般にふとっている人はやせている人にくらべて水分の欠乏に対しては抵抗力が劣り,カロリーの不足に対しては抵抗力が強いということがいえよう。
日本人の体格は欧米人にくらべて貧弱といわれているが,これは身長が劣っているばかりでなく同じ身長のものの体重を比べてみて平均2kg程度少ないようである。それでも,ここ10年くらいの間に肥満者の率はしだいに高くなってきた。そして特に婦人では美容などの面から体重増加を嫌う傾向が強く,やせ薬に対する関心や要望もしだいに高まっている。
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