視座
畳の功罪
鈴木 良平
1
1長崎大学医学部整形外科学教室
pp.293
発行日 1975年4月25日
Published Date 1975/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408905160
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欧米の整形外科を見て驚くことは,足の疼痛を訴える患者がいかに多いかということである.大部分はいわゆる扁平足障害,とくに小児のそれと,婦人の外反母趾であり,そのほかに胼胝や爪の障害も多い.このような問題が極めて切実な足の外科の課題になつており,Podologieなる診療科や学会もあるくらいである.これに反しわが国では,このような患者は非常に少なく,学会の主題としてとり上げられたのは,いわゆる扁平足障害についての,水野祥太郎名誉教授の詳細な研究のみである.しかしこれとても,第2次大戦前から戦中にかけての,工場医としての経験が主体となつているのであつて,長時間の立位の作業がその原因であつた.戦後労働条件が改善されてからは,このような患者は激減した.
日本では欧米に比べて足痛の問題が少ないのは,一にかかつてその生活様式に根ざすものと考えられる.わが国の住居が畳を主体とした床でできており,家の中で素足で生活しているのは,1日中靴をはいている欧米の生活様式と根本的に異なるところである.歩きはじめるときから1日中靴の中にとじこめられる足と,素足で適当な弾性を持つた畳の上で歩行訓練を受ける足とでは,その発育の上で大きな差が生じるであろうことは明らかである.
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