沈思黙考
ITの功罪
林 謙治
1
1国立保健医療科学院
pp.1009
発行日 2010年12月15日
Published Date 2010/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101986
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学生時代の臨床実習で,さまざまな検査を手作業で行わなければならなかった.白血球の計数はまずメランジュールで血液を吸い上げ,グリッド板に落として数区画分数えて全体数をかけ算で出す.今から思えばずいぶん原始的な方法であるが,不器用な私にとって思うにまかせず,将来ちゃんとした医者になれるかどうか不安であった記憶がある.それに比べて今では,ほとんどの検査がオーダーひとつで揃う時代になって,医者はさぞ楽になったかと思えば,昔と違った苦労を強いられているようである.
いまやパソコン操作ができない人は少なくとも中規模以上の病院に勤務できないであろう.筆者はかつて体調を崩して病院に受診したとき,医師は画面を見つめながら私に質問をし,もっぱら検査結果の入力と処方を打ち込むだけであった.患者の私の顔をほとんど見ず,腹痛と訴えても体を触りもしない.話には聞いていたが,やはり違和感があった.それでも数回通っているうちに,慣れてくるとそんなものかと妙に納得してしまったが,一般の患者はどう受けとめているだろうか.しばらくしてわかったことだが,検査成績は時系列的にすぐに打ち出してくれるし,診療後会計窓口で支払いを済ますまで,昔と比べものにならないほど速い.ITの普及は明らかに,診療カルチャーを変えてしまったのである.
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