連載 保健指導を科学する・8
保健婦活動の事例をもとにした社会学,社会心理学,臨床心理学的な考察
家庭内での主婦の地位
波多野 梗子
1
1東大医学部保健学科
pp.76-78
発行日 1966年9月10日
Published Date 1966/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203747
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この結核の医療中絶の事例について,主婦あるいは母親のとった態度をどのように理解したらよいであろうか。
前にものべたように,戦前の家族制度のもとでは,その中での女性の地位は低かった。近代家族のように夫婦の平等な結合によって家旅が成立しそれを中心として生活が営まれているのではなかった。家を継承する親子関係,特に家長である父と将来の家長たるべき長男を結ぶ関係が家族の基本となっており,それ以外の家族員は必然的に従属的地位に甘んじていたわけである。主婦は,そこでは極端にいえば「子をもうける手段」としてのみ人権を認められているにすぎず,夫やその両親の支配の下で主体性を欠いた働き手としてすごしていたのである。家族内の地位の低さにもかかわらず,主婦は家族生活の維持にとって必要な各種の仕事の分担の上では重要な役割をもっていた。すなわち,家族の機能のうち,幼少者の扶養教育,老弱者の保護,家事(これも現在とは比較にならぬほどの労働量だった)といった仕事の分担を直接うけもつのは主婦であった。そのような役割を果すことによってはじめて,主婦は家族の一員としての安定した地位を保つことができた,ともいえよう。
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