保健婦風土記
雪の中の訪問/新潟県の巻
曾田 房
1
1新潟県六日町保健所
pp.57
発行日 1964年7月10日
Published Date 1964/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203165
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雪と米とおけさで有名な越路の秋の足どりは早い.じとじとと降る雨はあっという間に雪だ.人びとは夜のとばりのおりるころ,長い冬の生活に備えての準備に一刻を惜しんで働き,三々五々黒い影を残しながら散ってゆく.「この下に家あり」こんな立札の出た38年1月の豪雪は,まだ生ま生ましくわれわれの記憶に残っている.くる日もくる日も空を真黒にして降る雪は,根気強いといわれるわれわれさえ,根負けするほどだった.一晩で1m余の積雪には,さすがの国鉄もお手上げ,進行中の列車は立往生,通勤者の多い役所はガランとしてしまった.帰れなくなった人は日が過ぎるにつれ不安はつのるばかり.一方奥さんはといえば且那はこないし,家はつぶれそうだし,なまじ電話だけが通じてますますイライラしてくる.また列車内にとじこめられた人は,一きれのパンや塩握り飯の連続では手におえない.泣くに泣かれぬこの気持ちというところ.動かぬ列車に見切りをつけ歩き出す者もいる.東京帰りの若い娘さん,ハイヒールを雪にとられ泣き出す寸前.しかし反面,若い二人ずれにしてみれば思わぬところで新婚旅行のリハーサルときてえびす顔.
屋根からおろされた雪は空地という空地をふさぎ,玄関ははるか下にかすみ,昼でも電灯をつける.
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