心にかかる私のケース
見捨てられている開拓地の人びと—保健婦の善意だけでは解決はない
平野井 信子
1
1北海道本別町役場
pp.66-68
発行日 1964年4月10日
Published Date 1964/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203091
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チューブでつぎをした長靴
毎日のことであるけれど,きょうもまた刺すようにつめたい朝でした.バスからおりてとぼとぼとなんにも考えずに歩きました,清里村--なんと美しい名前だろう.だれがつけたか知らないが私が今,はうように登りつつある山の中腹にそんな名前の開拓部落があります.一番入り口のKさんに出会いました.「お早ようございます」足もとがしばれて(凍ること)テラテラとリンクのようになっていて頼りないことおびただしい.Kさんの長靴に思わず目が走る.黒に赤いつぎがあるから自動車のチューブかなんかがべったりはりつけてあるのでしょう.昭和もすぎること39年,これだけ物資が出まわっているのに,と長靴をみつめて暗い思いがつぎつぎと走りました.
開拓者残酷物語,そんなことばがピッタリするというと,申しわけないが,主人,長男と一人ならず二人までも死に追いやり,母娘二人が残されて,これからも労働と借財に耐えてゆかねばならぬ運命の母娘の奮闘している姿を思い浮かべながら歩きました.
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