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「樹」と「潮」
長谷川 泉
pp.18
発行日 1963年6月10日
Published Date 1963/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202851
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自治会発行の機関誌の第1号である.どこでも同じだと思うが,予算などがあるわけではなしに,苦労して作りあげたあとがにじみ出ている.しかしながら,苦労して自分たちの努力のにじみ出たものが弧々の声をあげて世の中に送り出されたという喜びに満ちあふれているようである.創造の喜び,発表の喜びであろうか.しかし,発表には,常に思い切りと自省と,そして含羞が伴うはずである.ことに創刊号ともなれば,そのような感じもひとしおであろう.軌道をしくということは大きな仕事である.たとえ,ささやかな冊子であろうとも.
保健婦は,社会的な活動の場を得て,広い教養と,デリケートな対人関係を要求される.女性の職業としては,人間的教養に劣等感を感じやすい.たとえ技術に自信を持ってもである.機関誌は,人間的向上の切磋琢磨のよすがになることであろう.両誌の中には,同じ世代の共感のなかでのびのびと赤裸な心をみつめ合うナイーブな心情があふれている.やがて世の中の実務の中に放り出されてゆけば,ここに見られるような無垢な心情はスポイルされてゆくことはやむを得ないかもしれない,しかし,機会があって,学院に講演に赴いたこともある.私の目に映じた,ここの卒業生たちそれはすでに現場のきびしい試練をへているのだが—その人たちと,教務の人たちや学生たちとの心のつながりは好ましく内的な強い紐帯で結ばれていることを感じさせた.
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