編集者から読者へ
だまされなかつたPR
所沢 綾子
1
1編集部
pp.10
発行日 1960年5月10日
Published Date 1960/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202083
- 有料閲覧
- 文献概要
私は都心から1時間位かかる郊外の,昔流に云えば8軒長屋といおうか,今流にいえば四階建のアパートに住んでいる.私のいるアパートの近くには,キャベツや大根の畠があつて,雨の日などには,はつとするように若若しくぬれた緑の野菜や草々を見ることができる.5分も歩けば藁ぶきの農家も2〜3軒見ることができるのだから,もう3〜4年前は,きつと人家もまばらな位の田舎であつたのだろう.そこへ公団や協会の住宅がわつと建てられて,世帯数が激増した類の町--それが今私の住んでいる町である.こうした郊外に住んで嬉しいことは,やはり静かで空気が綺麗なことである.
高村光太郎の詩集「智恵子抄」の中に「あどけない話」という詩がある.その詩の中に
智恵子は東京に空がないという
本当の空が見たいという
という一節があるが,私のような田舎者にとつては,やはり東京の街中で見る空は本当の空と思えない.殊に幼い頃,澄んだ青さで輝いている星空を見つけて来た私にとつて,どんよりかすんで,かがやきを失つた星空なんて全く本当の空ではない.ところが,この郊外で時たま悲しい程冷たく澄んだ星のまたたきを見ることができるのも都心から離れた町に住むことの喜びの1つかもしれない.しかし不都合なことも沢山あるなかでも一番気にさわるのは商店のサービスの悪いことである.
Copyright © 1960, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.