コンタクトレンズ(2)
東府屋の猪鍋
長谷川 泉
pp.55
発行日 1959年6月10日
Published Date 1959/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201896
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この頃,折を得て猛台風に荒らされた中伊豆の復興ぶりをまのあたり見ることができた、土曜,日曜がつぶれるが,遠出の編集会議の功徳である.修善寺駅につくまでの温泉電車伊豆号の沿線はまだ惨禍のあとが残つていていたましい.長岡,大仁のあたりがひどい.まだ新しい木の香の匂うような小型の家がぽつんぽつんとたてられているが佗しく,あつという間におし流されてしまつた家屋の被害の大きさが,まざまざと偲ばれた.区劃の全く無くなつてしまつたのつぺらぼうの田畑が満目続いているところがある,根こそぎにされた流木が,ごろごろところがつたままのところも残されている.復興はなかなか大変のようである.
私たちの行つた吉奈温泉の東府屋も,川沿いに位置しているだけに氾濫した水勢のすさまじさで,あつという間に床上一間もの被害を受けたあとである.大部分の建物は立派に復旧していたが,塗りかえた壁のつぎ目は,あそこまで水につかつたのだという悪魔の爪跡を残している.もうこんなことは二度とないであろう.吉奈温泉は,修善寺と湯ガ島の間,おちついて野趣横溢の場である.天城山麓の天然にめぐまれている.東府屋とは駿府の東の意であろうか.気宇大である.
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