書評
江口 篤寿氏の「未熟児の取り扱い」を読んで
馬場 一雄
1
1東大小児科
pp.25
発行日 1959年3月10日
Published Date 1959/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201824
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特殊な技術を用いて未熟児を育てるという企てが始められたのは,決して最近のことには属さないが,戦前と戦後とを比較して,未熟児養護の技術が殆んど一変したことは事実であろう.保育器一つを見ても,最近生れた未熟児は,四面何処からでも透視されるプラステイツクの箱の中に収容され,空気は,音も立てずに無窮の廻転を続けるモーターによつて屋外から保育器内に取り入れられ,殆んど完全に周囲から隔離されている.戦前に見られた,煙突のような換気装置のついた木製保育器は影をひそめて,既に骨とう的価値を獲得しつつある.授乳にもピペツトやネラトン管に代つて,糸のように細いポリェチレンやビニールの留置管が使用されるようになつた.未熟児のための特殊な粉乳さえも市販されている昨今である.
私事にわたつて恐縮であるが,私はこの本を読みながら,未熟児の仕事を始めた10年前のことを思い出す.当時私共はHessやCrosseの著書と首つ引で,おつかなびつくり未熟児を育てた.これ等の本もすぐれたものではあるが国情の相異もあつて,そのままでは真似の出来ない点があり,何よりも看護婦や助産婦の諸君から,新しい養護技術に関する適当な参考書を要求されたときには困惑した.その頃,江口氏の著書のような行き届いた手引が出版されていたならば,われわれが経験したような苦労はなくてすんだであろう.
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