講座
角膜移植
樋田 敏夫
1
1日本医科大学眼科
pp.28-31
発行日 1959年2月10日
Published Date 1959/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201809
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角膜移植とは
角膜移植を語る前に角膜とはどんなものかを知る必要があります.よく眼球の構造を写真器にたとえますが,角膜は写真器で言えば最前端にあるレンズに相当します(第1図)、厚さ1粍直径約10〜12粍の透明な膜で普段我々がクロメと言う部分です.この角膜を透して外界の光が瞳孔を通つて綱膜なるフイルムに感光し,外界の色々の物が見えるわけです.従つて,此のレンズが何かの眼疾(普通,先天梅毒による角膜実質炎,淋菌性膿漏眼,外傷,フリクテン,トラコーマパンヌス等)で溷濁すると,たとえ水晶体とか,網膜視神経等に何の異常もなくても光が眼内に入らず,一生霧の中に居る様に物が見えなくなるわけです.而も此の角膜という透明膜は一度溷濁すると如何なる薬物的治療でも理学的療法でも再び透明化する事は困難になります.(写真1)そこで此の溷濁した角膜を何か外の透明な物と置き換えれば宜しかろうと考えるのは誰でも一寸考えつく事です.これが角膜移植です.
最近,下村海南氏が死後眼球を提供したのと,角膜移植法が成立したのとで角膜移植術は一躍世の脚光を浴びて来たのですが,此の手術は別に特に真新しい事ではなく,外国では既に百年半も前から度々行われて居り,我が国でも日本医科大学教授の故中村康教授も昭和15年以来,4百人以上の患者に手術を施され,此の手術の権威でありました.
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