特集 上手な話し方
説得のしかた
渡辺 道子
pp.55-57
発行日 1957年5月10日
Published Date 1957/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201406
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三年前,新中国を訪れたときのこと,日本と同じように封建性の強かつた中国の農村に,明るい平等な人間関係がつくられて,合理的なものの考え方が普及しているのに,目を見張つた.「短い年月の間に,このような大きな変化を齎した秘訳は?」と尋ねたら「一に説得,二に説得,三にも説得」と答えられて,成程とひどく感じいつた.おおらかで粘り強い中国人の性格と,自分が良いと信ずることを相手に判らせずにはおかないという気魄が,この言葉にはこもつていた.自分たちの生活を一変させる大きな革命を,古さに馴れた民衆に納得させ,受入れるようにさせるのは,全く容易なことではなかつたことだろう.新中国の指導者たちは,忍耐強く労をいとわず,このやり方で努力を続けたことが,あのように民衆の熱烈な支持を生んだのであろうと強く印象に残つた.
「説得のしかた」というおよそむずかしい題を与えられて,頭を抱えていた私にふと浮んだのが,この新中国の印象だつた.元来,短気で粘りのないのが特徴といわれる私たち日本人にとつては,全く苦手な説得ということを,もつと本気で考えなくてはならないと今,またあらためて思わせられた.
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