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保健所に保健婦は要らない?
石垣 純二
pp.10-13
発行日 1956年10月10日
Published Date 1956/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201277
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わびしい保健所風景
先だつて,水郷で名高い千葉県のS市に講演に参りましたら,S保健所長さんが宿に訪ねて来て下さいました.お会いすると14年前にハルピン市で,別れたままの旧友でした.そのころの私は厚生省から満洲の視察旅行に派遣された若い抜師,彼は県技師から応召中の若い軍医しかし,同じ体力管理の仕事で手をとり合つた仲ですから,まる1日をハルピン市の郊外の軍病院で楽しく喋りくらしたのでした.ソ連に永らく抑留され,帰国してまた公衆衛生に戻つた旧友と,14年ぶりで水郷の宿で再会して,また一夜を川風に頬をなぶらせながら,公衆衛生の夢を語りつくせたのは,やはり『生けるしるしあり』です.
彼の話を聞いているうちに,私の胸はだんだんとふさがつてきて,おしまいには涼しい利根の川風もわからないくらい深い思案に沈んでしまいました.S保健所はA級の保健所ですのに,医師は所長1人,保健婦は定員8人のところに3人しかも3人のうちの1人は高血圧症などで静養の日が多く,実働は僅かに2人.友が仕事の将来に何となく自信を失つて苦悶している気持が手にとるようにわかるのです.しかも県下の保健所長さんが3人も,そろつて辞表を出しているという事件も彼の口から洩れました.「今のサラリーでは食べて行けないから」という端的な理由だそうです.無理も無いですけれどもネ.
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