映画紹介
恐怖の逢びき
pp.56-57
発行日 1956年2月10日
Published Date 1956/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201124
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解説
1955年カンヌ映画祭に出品され,批評大賞の栄をかち得,スペイン映画の面目を全欧洲にほこつた作品である.ヨーロツパ映画界の知られざる国スペインからこれほど大胆極まる作品が生れ出たことは驚異というほかあるまい.姦通は映画で最も多く扱われるテーマの一つだが,不倫の恋に溺れる男女の悲劇をこれほど鋭く追求した作品はかつてなかつた.
自動車で密会の帰途の男女がマドリツド郊外の路上で自転車に乗つた男をひく.恐ろしい悲劇の発端である.ひかれた男は,死の重傷ながら病院へ運べば助かつたかも知れない.しかし,秘密の関係が洩れるのを恐れた二人は犠牲者を見捨てて.温い我家へ逃れ去る.誰も目撃者はいなかつたのだろうか? こうして恐怖と虚偽と偽善とに二人の心はさいなまれがら,安逸な生活の中に束の間でも恐怖を忘れ,良心を麻ひさせようとあせる.平凡な人間の中に如何に「偉大なる恐怖」が生れ得るか,かよわい女性が恐怖に追われる時,どんなに恐るべき衝動が彼女の中に生れ得るか,異常な緊張とサスペインにつぐサスペンスに貫かれたこの作品は屈指の傑作として,目下パリでも大好評のうちにロードシヨウを続けられている.
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