今月の言葉
古さのよさ
pp.5
発行日 1955年11月10日
Published Date 1955/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201051
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奥州の平泉といえば,源平盛衰記中に出て来る金売り吉次の住むところ,又若い義経を援助してくれた藤原秀衡父子三代が,善政を敷いたところとして,今から八百年程も昔には,奥州随一の大都会であつたという歴史的土地であります.見渡す限り黄金の波をうつている豊かな田園の一角にこんもり茂つた山があり,歴史の各頁を物語るゆかりの存在となつてのこつている.三百年も,或はそれ以上もたつているのではないかと思われる見事な杉の巨木の並木をつらねた上り坂の参道は,昼なおうす暗く日光街道の杉並木をほうふつさせるものがあります.途中のやや展けた個所に亭があり,見晴台となつていて,ここから古えの平泉の全景が眺められたところだということでありますが,現在では衣川が帯のように美しくゆるやかに流れる平凡な田圃で,案内の説明図によつてその昔,何の建物が,どこの辺りにあつたなどと僅かに知ることが出来る丈で,ただこのゆるやかに流れる衣川が,かの激しい古戦場であつたのかと,歴史を省つて感慨を深くするのでした.更に道を進む程に義経堂,弁慶堂と,歴史に親しいゆかりの御堂のある中に,ひときわ立派にこの平泉の山の中核をなす金色堂があります.これは藤原秀衡が,仏教を普及する目的より,自分自身の信仰のよりどころともして建立された金堂で,これはうるしと金箔でかためられ,目にもまばゆい豪華な御堂であつたものの由.
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