読者の声
関東北部のある患者を訪ねて
鈴木 みさを
1
1大子保健所
pp.49
発行日 1955年7月10日
Published Date 1955/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200987
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花曇りの上小川駅に下車,車馬のほこりを浴びながら患家を目ざして足を運ぶ.途中苗代の仕事に余念なく働く農夫に道問へば片道1里半,幾つも重なつている山を指差し,山の中腹にある部落ですと言う.雨に洗われた石ころの多い細い坂道を登り始める.行けども行けども左手は山ばつかり,右手に小さく区切られた田園あつて,蛙やかじかの啼く声,新緑の葉がくれに啼く烏の声,したたり咲くふじの花が私達の耳目を嬉ばせてくれる.やわらかい陽光もやがて私達の額に汗をさそう.人つ子一人逢わない.たまさか苗代の仕事に働く農家の人"頑張ろう"何時か二人して幼き小学校時代の思い出の歌を口ずさむ様になる.此の沢に入つて何分経過したろう.時計を見ると,11時をさしている.人家なく道に迷つた様で心細い.山はますます急となる.比んな交通の不便な村に住む患者の保健所や病院の通路であることを思うと……大気安静栄養療法……一刻も早く患者に面接して患者の訴えを,又指導をと,2人して又登り始める.(中略)
わらぶきの農家が山の中腹に点々と散在しているのが軒程,男体山よりきり出す。材木を運搬する村人に出合う,坂は急になり汗はにじみ出し,水は欲しくなる.眼の前には海抜660米の男体山は突つ立つている.眼下には今登つて来た幾つかの山が重なり,農家のわら屋根が隠見している.一休みして歩み出すと,鍬を背負つた農夫に親切に患家を教えられる.すぐ近くですと教えられても一山向う.
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