今月の言葉
考える葦
pp.5
発行日 1955年2月10日
Published Date 1955/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200893
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久し振りで精神病院を訪ねる機会をもつたのは,冬にも珍らしい小春日和のよいお天気の日でした.喧そうな市街から小一時間程はなれた平和な農業地帶の一角,小高い岡を脊に,南に展けた丘陵に点々と赤な緑の屋根をもつた病棟を散在させている公立の病院.すこぶるつきの熱心な院長先生の御案内で,軟地の割に建物はひどく散つていない300床程の病棟を,一つ一つ訪ねてまわりました.以前にも他の精神病院は2〜3カ所訪ねたこともあり,異つた施設の,異つた取扱いを,精神衞生事業発展途上の過渡期的傾向と,いつもみて来ていたのでありますが,何れの施設についてみても,最近とみに感ずることは,施設がきれいになつたこと,病人の取扱いが人並みになつて来たこと,そして,もう一つ顕著なことは,ひどい重症者の少いことであります.生命を尊重する思想のあらわれとしてはじめの二つの進歩は考えられますし,後の一つは,精神医学の発達の故といえましよう脳外科なども盛に行われるようになり,治らないと思つていたケースは恢復し,重症者は軽度になるというわけで,従つて病院の中でも,いわゆる保護病室にいる患者は少くなり或程度まで治つた人達が大半をしめ,その人達の看護指導が重要な役割になつて来ているわけです.或院長先生は精神病院のことを,「大人の小兒科」と表現されましたが,けだし至言と思います.
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