- 文献概要
「ほどほどに,するこそものの上手なれ」何ごとも適当にするのがもつともよいということは,種々の場合に教えられている眞理です.たかぶらないこと,でしやばらないこと,つつましいこと,遠慮深いことなど,これらはみな一つのことを表現していますが,これらの美徳もまた,中庸が必要なのであつて,これが足りなければ,およそ鼻つまみものでありますし,そうかといつてありすぎるととてもいやみになり,足りないよりもさらによくない状態となります.そこで非常にむずかしくなるわけですが,かけひきでも何でもありませんから,ひいたり,むしたりというわけのものでもないのですが,四囲の状態から判断して,今はどちらを選ぶべきかをみきわめることはもつとも大切です.この判断を誤ると,とんでもない結果を生み出すことにもなりましよう.この判断こそは,それぞれ各人の持ついわゆる教養がもたらすところのものなのだと思います.
ところで此処に一つ不思議な條件があります.自分自身の問題なら,どうしても遠慮すべきはずのものでも,こと他人に関すること,特に公のためのこととなると,俄然勇気も力も湧き出て,遠慮しないばかりでなく,むしろ強硬におしきることができるという現象です.自分のことは言えないけれど,他人のことなら何でも言える,ということなのです.
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.