講座 2頁の知識
癌!
賴木 三雄
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1東北大學醫學部公衆衞生學教室
pp.25-26
発行日 1953年6月10日
Published Date 1953/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200527
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昭和27年7月は,我国公衆衞生上記念すべき月であるといえる。それは,我国の死因別にみた毎月の結核の死亡数が,癌の死亡数より少なくなつた月であるからである。結核死亡が減少した事は喜ばしい事である。しかし一方これに代つて登場した癌は公衆衙生上手強い相手である。その前月まで脳溢血—結核—癌という順であつた我国の毎月死因は,この月から脳溢血—癌—結核となつたのである。昭和27年全計としては,結核の死亡約7萬,癌はこれより約1千位少くて第3位であつた。しかし結核は急減しつゝあり,癌は漸増しているので,昭和28年は癌死亡は遙に結核死亡を引き離すことは確実である。30年前我国民死亡の第11位死因であつた癌は,ここに魔物の如きその正体をあらわして来たのである。老いゆく人間の前途に待伏せる癌!今や人命に與えるその危険は結核を凌駕するに至つた文字通りの癌。今世界の医学者はこの1年100萬乃至200萬或はそれ以上の人間の生命を脅かしつゝある不屈の曲物癌の退治に躍気にたつている。光明は見えかけたがしかしまだ不完全である。人間の知識は癌を作る事には成功したがしかし自然におきる癌の発生理由はまだ十分説明されていたい。1915年,欧洲の天地が第1次世界大戰の砲煙に包まれていた頃,兎の耳にタンネンにコールタールを塗りつづけていた東大病理学教室の山極教援は,遂にここに人工的に癌を作る事に成功された。
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