東西詞華集
お百度詣—大塚 楠緒子
長谷川 泉
pp.50-51
発行日 1952年6月10日
Published Date 1952/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200303
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大塚楠緒子の「お百度詣」は,与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」がとりあげられる場合によく引き合いに出される詩である。「旅順口包囲軍中に在る弟を歎きて」とサブ・タイトルされた「君死にたまふことなかれ」が女性の心情としてはかなり激越な調子で反戦の調をかなでているのは,「堺の街のあきびとの旧きをほこるあるじ」にして,「親の名をつぐ君」であり「十月も添はでわかれたる少女ごころ」から「暖簾のかげに伏して泣くあえかにわかき新妻」を持つ,肉親の弟によせる晶子のヒユーマニズムがせきを切つて奔流しているからである。「君死にたまふことなかれ」の解説(名詩鑑賞)の時ふれたように,晶子のこの詩にくらべるならば,楠緒子の「お百度詣」はもつとひかえめな心情と女性らしいつつましやかな表白と嗟嘆からなりたつている。しかし,それにしても,この詩が万人に共通な,特に女性にとつては,あたたかい血の通つた共感を呼ぶのは,ヒユーマニズムの基盤につながつた心の強い訴えに貫かれているからであろう。
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