講座
インフルエンザの話
甲野 禮作
pp.6-10
発行日 1952年2月10日
Published Date 1952/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200225
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歴史上の古い記録をみますと,「諸國風邪流行」とか「世の人咳嗽られえずと云うことあらず」などという記事が残つています。おそらくこれは今日のインフルエンザでしよう。この樣に惡性の風邪が大流行を起すことは昔から知られていましたが,これに對してインフルエンザという言葉が用いられだしたのは16世紀の頃のことです。インフルエンザという言葉は語源から言うと,英語のインフルエンス(影響)という字と同じで昔の人々は,この樣な流行を天や地の神秘的な影響によつて起ると考えてかくは名付けたものでしよう。
スペイン風邪や,イタリア風邪の例もある樣に,大きなインフルエンザの流行はしばしば面白いニックネームを持つています。日本では安永5年に江戸に「お駒風邪」の流行があり,これは當時白木屋お駒という淨るりが世に行われていたので,その名前がつけられたということです。その他,享和2年「お七風邪」,明治23年の「お染風邪」と颱風ではないが,婦人名が可成りあります。矢張り風の同類だからでしようか。明治23年のお染風邪は世界的流行の一部で傳染性の風邪という意味を風流にもじつたものらしいとのことです。この時世人は風邪よけのまじないに「久松るす」と紙に書いて門口に貼つたものださうです。これらはみな原子爆彈のなかつたよい時代のエピソードであります。今日ではインフルエンザは一種のビールスによつて起ることがはつきりとしました。
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