劇評
炎の人—ゴツホの一生
白木 博次
pp.61-62
発行日 1952年1月10日
Published Date 1952/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200222
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私は最近民藝が演出した天才畫家ヴアン・ゴツホの一生,とくにその晩年のそれの,"炎の人"をみる機會があつた。原作は三好十郞で雑誌群像にのせられているころから興味をもつてよんでいた。というのは皆さんも御承知のことゝ思うが,ゴツホはその晩年を精神病で送院つており,まず精神分裂病であつたと考えられているからで,また小説"タチヒ"をかいて有名な,そして私達からみて隨分特異な性格をもつていた同時代の天才畫家ポール・ゴーガンと親交があり,しかも2人の間はゴツホ自身の悲劇的な發狂によつて終りを告げているからである。天才藝術家達のなかで精神分裂病であつたものはかなり指折り算えることができる。詩人にはヘルダーリンがあり,彼の發病直前のそれは古今の詩の中で最高傑作の1つといわれているし,またレナウ・ノヴァリス等も同じ病氣になつたと考えられている。音樂家にはシユーマンがあり,激しい幻聽,被害念慮のあげく,ライン河に投身自殺を企て,精神病院でその餘生を送つている。ロシアの天才小説家ガルシンは自分の精神病院入院當時の體驗を書きつづつた不朽の傑作"紅い花"を殘して短命に終つている。こうした藝術家達は皆,20代,30代で藝術の上で,後世に殘る大きな仕事をしてその短い生命を燃え切らせている。
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