連載 めざすは正義の味方 月光仮面 福祉の現場から・9
喫茶店の午後
内山 智裕
1
1埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科
pp.1187
発行日 2003年12月1日
Published Date 2003/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662100224
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よく行く喫茶店がある。そこではほかの客が話し掛けてくることもあるから,好きな本をゆっくり読むことはできない。それでも私がその店に行きたくなるのは,そこに何かがあるからだ。私が持ち合わせている言葉では上手く表現できない。安心感に似たようなものだ。
その喫茶店は,精神障害者の通所授産施設で,休日にはいつも決まった顔ぶれが並ぶ。その客のひとりと私は膝を突き合わせて,いろんな話をする。その日の話題は,「いま最も楽しいこと,満足していること」だった。その女性は現在35歳だが,23歳の時に発病し,紆余曲折を経て現在に至る。彼女がいま最も楽しみにしていることは絵を描くことだ。私も彼女が描いた絵を見せてもらった。これがなかなか。吸いこまれてしまいそうな構図と洗練された色使いで,絵心のない私の心にも響くものがあった。彼女は現在,公募のある展覧会に出展しようと作品を制作中である。
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