余白のつぶやき・26
もう、いえーがー
べっしょ ちえこ
pp.1069
発行日 1981年9月1日
Published Date 1981/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922825
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オースチン対イエーガーのワールドテニス決勝戦は、近来まれにみる好勝負であった。ファイナルセットも6-6のタイブレークとなり、結局イエーガーが強烈なショットをサイドライン浅くきめて三万ドルを手中にした。十八歳と十六歳の天才少女がみせた静かで熱い闘いぶりは、その翌日からさっそく私の所属している草テニスのクラブでも話題となり、イエーガー風、オースチン張りのアクションが流行りはじめた。
テニスといってもこっちの方は、若者からいまどきダサイと馬鹿にされる軟式だし、それも団地のおかみさん達が体重減らしにやっているといった程度なので、世界のトップレベルのプレーなど、夢の中の夢のように遠いことである。しかし陽気なおかみさん達は、重ね餅のようなウエストからやおらシャツの裾をめくり上げ、汗で濡れたグリップをそれで拭いたりして、すっかりイエーガー気取りだ。右に左に振り回されて完全に息が上がり、「もう いえーがー」よたよた球を打っては、「今のはオースチンの球でなく、メースチンの球だよっ」などと冷やかされている。あとはみんなで呵々爆笑。豪快な笑いの風圧はネットも吹き飛ばすばかりだ。
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