連載 ワットさんのペーシェントロジィ[今,患者が主役の時代]・21
私が死ぬ時
ワット 隆子
1
1あけぼの会
pp.1220-1223
発行日 1989年12月1日
Published Date 1989/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922432
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
自分の宗教
朝起きるとパジャマのまままず外に出て,家の前の小さな花壇を眺めるのが私の1日の始まりだ.私は普通5時には起きるので,パジャマ姿を人に見られる恐れはそうない.
9月ももう余すところ2,3日.朝夕の風がひんやり肌に浸みて季節はまぎれもない秋だというのに,私の花壇には夏の名残りの朝顔が,なんと,今を盛りとばかりに咲き誇っている.色は一色,究極の紫.1つ2つ3つ,今朝は全部で15も花開いている.今年は花壇だけでなく,私の書斎の窓の鉄の桟にも伝って咲くように植えてみたところ,雑草しか生えていなかった土壌にしっかと根をおろし,桟のてっぺんまで伸びて花を咲かせてくれた.窓を開けて花が1つ部屋の中に入るよう,茎をそっと引っぱってみる.秋風に揺れて,1輪の朝顔が私を見つめている.あと数時間の命というのを知ってか知らずか,ただ無心に風のそよぐままに揺れている.
Copyright © 1989, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.