老景十二話・5 〈老い〉の中に世界が見える
笑う
三好 京
,
三好 春樹
pp.595
発行日 1986年5月1日
Published Date 1986/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661921420
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人々はよく老人ホームに〈慰問〉にやってくる.どうやらホームの老人たちは慰めの対象であるらしい.いったい老人たちの何を慰めに来るのだろうか.老いをだろうか.だが,家庭に居る老人を慰問したりはしないから,慰めの対象は老いではなく,家庭と離れて施設生活をしていることに対してであるらしい.
確かに老人ホームの老人たちは家族から離れている.しかし離れているのは空間である.距離的に離れているに過ぎない.問題なのは空間的距離ではない.〈気持ち〉だ.家族と一緒に生活していても〈気持ち〉が離れていたらどうだろうか.そこには“関係の地獄”があるだけであり,むしろ空間的に距離を置く方がうまくいくことだってあるのだ.世の人々には,“家族と同居して幸せそうな老人”と,“老人ホームの寂しそうな老人”とを比べようとする傾向がある.しかし,それは皮相的な見方である.むしろホーム入所を境にして互いの気持ちが通じ合うようになった家族と老人は多いのである.そしてそのことこそ老人ホームの社会的役割なのである.
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