特集 患者の生活の場へ—訪問看護の実践
医療・看護の生活化を—患者の生活問題に目を向けよう
山手 茂
1
1東京都神経科学総合研究所社会学研究室(医療社会学)
pp.447-452
発行日 1976年5月1日
Published Date 1976/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917869
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Ⅰ.生活者としての患者
いままで,医師や看護婦には,患者を身体に病気(病巣)を持つ人間としてとらえ,専ら患者の身体に関心を集中する傾向が強かったようである.最近,患者の身体ばかりではなく,精神をも重視すべきであるという考え方が強くなっているのは,患者への認識が一歩進んだことを示しており,喜ばしいことである.患者を,身体と精神との統一体としてとらえ,病気を身体と精神との両面から総合的に扱うことは重要な課題である.しかし,それだけで十分であろうか.
患者の不安や悩みを分析すると,死への不安や病気の予後についての悩みばかりではなく,家族の将来に対する不安や自らの人生についての悩みが重要な要因になっていることが明らかになる.患者は,自己の死に対して不安を感じているだけではなく,‘自分が死んだら,愛する妻や子どもの生活はどうなるのだろうか’という不安に苦しめられている.病気の予後が悪いと悩んでいるだけではなく,それによって教育が受けられなくなったり,職業が続けられなくなったり,家庭内の役割を果たすことができなくなるなど,人生設計・生活設計が破たんするために,絶望し,生きがいを失って悩んでいるのである.
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