連載 看護関係の心理・5
‘けじめ’と‘隠れ身’
小此木 啓吾
1
1慶応義塾大学医学部
pp.628-633
発行日 1973年5月1日
Published Date 1973/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916652
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けじめ(境界)をはっきり
ある病院で,院長がこう提案しました.患者さんと職員は,人間的な親しみで結ぼれていなければならない.それにはまず‘同じ釜の飯をいっしょに’という一体感が何よりである.非行少年の矯正にあたるうえでの最大のコツも,まず寝食をともにし,同じ釜の飯を食べるところからだ.そこで,これから食堂での食事を,職員も患者も同時に,同じ場所でということにしたい.
しかし,実行されてしばらくすると,看護婦さんよりまえに,まず医師たちが反対しはじめた.忙しい診療に追われて,ホッと一息.せめて食事ぐらいゆっくり,と思うのに,ごはんを食べていると,次々に患者さんが寄って来て,いろいろ話しかけてくる.‘あれじゃ胃潰瘍になっちまいます’同じ困惑が看護婦さんからも出され,結局は,ふたたび職員は職員,患者は患者というぐあいに食事を別にすることになった.
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