特集 差別のなかの患者処遇—身障者・精神病者・らい者
「病者」を差別する目—癩の歴史と関連して
藤沢 敏雄
1
1国立武蔵療養所精神科
pp.31-35
発行日 1971年5月1日
Published Date 1971/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916019
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I.はじめに
私が扱う問題は,通常な人間が,ある種の「病者」を差別する目,別な言葉でいえば,差別する心の構造についてである。当然のことながら,「病む者」への差別はそれだけでとどまるものではない。枚挙にいとまのないくらい差別や偏見の問題はあるし,おそらくこの国には,社会構造の根深くに定着した,差別の思想があるにちがいない。そうしたことは,多くの人びとがすでに指摘しているが,差別の思想は,この国の人権思想の弱さとも関係しているのであろう。それであるからこそ,ここでいう通常な人間というのも,はなはだ心もとない存在である。
ある「病者」を差別し,排除している人間自身が,もしやすれば,明日になってひょんなことから偏見によって包囲され,差別に苦しむようにならないとはいえないのである。問題は,そうした差別の相対性と,背景にある社会構造の問題にどれだけ深い認識を,この国に住むわれわれが獲得できるかにあるのだろう。
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