ルポルタージュ
イタイイタイ病は昔からあった
木島 昂
pp.56-60
発行日 1969年3月1日
Published Date 1969/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914403
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新しい名所・神通川
11月16日,ミゾレまじりの富山駅に降りる。〈神通川・富山市から西へ0.8kmの地点を流れ,流程132.7km,鮎釣りに適し川上には発電所がある〉,駅の名所案内板はこともなげに,のんきにこううたっている。だがこんにらほとんどの日本人は心の中で別の読み方をする。〈川上をさかのぼると,岐阜最北端に三井金属鉱業神岡鉱山がある。その洗鉱廃液により下流沿岸の農村にイタイイタイ病発生,5月8日には公害病第1号と厚生大臣から認定された〉というふうに。
企業殺人の鉱毒川という汚名をこうむった神通川,その右岸を富山市から6kmさかのぼる。イ病発生の中心地,そしてイ病を追跡した開業医,萩野昇医師の経営する病院がそこにある,婦負郡婦中町だ。車窓から眺める神通川はすでに渇水期に入り石コロの白い川原を広くさらけ出し,誰が捨てたのか錆びたフレームを剥き出しのポンコツ車が1台,わびしい。対岸の灌木の茂みの中から,ふと小さな飛行機が飛び立った,冬期は欠航の多い富山空港だ。遠く雪をいただいた北アルプスの連山だけが目をたのしませてくれるただひとつの風景である。
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