グラビア
シリーズ/霊長類ヒト科—孤独
pp.98-99
発行日 1969年2月1日
Published Date 1969/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914385
- 有料閲覧
- 文献概要
人間がもともとひとりぽっちで存在したとすれば、孤独という心境はそこにはありえなし。R.クルーソが孤独を想ったとしたら、それは人間社会への郷愁だろうし、そうして想いにふけるときに彼の存在はすでに孤独とはいい難い。そのとき彼の存在はもっとも人間的ですらある。
この逆説は、裏返しにされた時にこそ恐ろしい。現代の人間存在の諸様相の多くはこの裏返された逆説にピタリとあてはまってしまうであろう。たとえば、朝の雑踏する人混みの中で人々の頭を去来するものは刻々ときざむ時計の針と早く前へ出たい、じゃまっけな周囲のモノへのイラ立ちでしかないのである。このとき、彼の存在はまことに多くの人間の中にあって真に孤独であり、また、彼の心の中は人間への想いはひとかけらもなく、非孤独的なのである。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.