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大言小言—忍耐と知恵と寛容の美しさ
岩谷 時子
pp.104
発行日 1968年8月1日
Published Date 1968/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914100
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多くもない家族ではあるが、幸福なことに私を含めて家じゅう病院生活の経験がなく、また、ながい間、家で寝ていなければならないような病気にかかったこともないので、看護婦さんのお世話になった経験がほとんどない。しかし、どうした御縁か、私は永年住んでいた宝塚にも、ここ15年余り住んでいる東京にも看護婦さんの友人を一人ずつ持っているのである。お二人とも病院につとめるベテラン看護婦さんで、共に独り者で、両親がなく、けなげにもこの道ひとすじに生きてきた女性だが、いつも柔和な微笑をたたえ、それでいてどこか頼もしく私はこのお二人が大好きである。ちょっと咽喉がいたいとか、肩がこって首がまわらないとか、病気のなかへも入らないようなことでも大変だ、大変だと駈け込めば、微笑しながら適当な処置をしてくれるし、これがまた、すぐに治ってしまう。いつも薬ひとつ飲んだことがないから、野蛮人同様に注射や薬が良く効くのだと、彼女たちはケンソンして笑っているが、私はいつも「お助け姉さん」とか「博士どの」とか呼んで、大いに尊敬している。
看護婦さんという職業は、女性のあらゆる美点を要求する職業で、完壁な看護婦であることは、完壁な妻であることよりも、はるかに難しいことだと私は思う。患者は優しさを飽くことなく求めるだろうし、看護婦さんは、いかなる時も情に溺れず、冷静に患者の病気を見つめていなければならないのだから……。
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