今月の考察 医療過失事故
医療過誤からみた看護の問題点
寺畑 喜朔
pp.55-58
発行日 1968年4月1日
Published Date 1968/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913944
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まえがき
看護の歴史はきわめて古いのであるが,近代医療が確立されてから,近年にいたるまでは,少なくとも,患者に対して誠意をもって看護に当たれば,まず,その目的は達成されたと考えてよかった。とくに,患者の身のまわりについて,あれこれと小まめに世話をし,また,医師の指示に対して反応的に行動すれば,その看護婦は優れているといわれ,現在もそのようなセンスが医療界に存在している。したがって,患者にとって療養上,多少にかかわらず,不都合が生じても,よほどの意志の疎通が患者側との間に欠いていないかぎり,看護上の失敗は医療過誤として,取り扱われなかった。このことは,明治以来の医療事故の統計(表1)からみて明らかである。
しかし,年々高度になり,かつ複雑になってきた医療内容と,加えて社会通念の変遷により,とくに要求権の主張が著しくなった今日では,どうかすれば,以前にもこんなことはあったが,なんら事件に発展しなかった……などの失敗は今日では許されない状況となってきた。一方,著者は多くの医療事故の発生端緒を個々に医師の立場から分析してみると,意外にほとんどといっていいくらい,患者と看護婦の間のいずれかに,明らかな意志疎通の欠除が認められ,これが医事紛争の発端となっていることに気付いている。
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