ポイント
もっとやさしくなりたい
二木 シズヱ
pp.65
発行日 1965年3月1日
Published Date 1965/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913533
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昨年の夏以来,新しい勤め場所の環境に馴れぬためかはげしい下痢におそわれ相当の体重減少をみた。受診した医師から,右腹部に大きい腫瘤を認めるが,下痢がおさまったのち,精密検査をうけてみるように注意された。秋になり,下痢も原因不明のままおさまり,食欲も正常以上に,喰い意地をはっているうちに,体重ももとどおりになった頃,今度は頑固な便秘におそわれた。その度に忘れていた腫瘤は私の手にふれるくらい大きく硬くなってしまった。便秘からくる身体の異和感のみが不輸快なだけで,毎日の多忙におしまくられ,精密検査をうける機会をさけた愚かしい病院勤務をつづけていた。
夜,私は開放された時間を,ベッドに身体を横たえ,両手で腫瘤をなでながら,もっている限りの知識を集めていろいろの診断をつけてみたが,何時も最悪の状態の結果を想像し,それが死に移行する疾病であるかも知れないと,何回も何回も私はおもいつめた考え方をした。「診てもらおう。知らない病院にいって受診しよう」そう決心して信頼する医師の紹介状をもらって産婦人科医を訪れた。無神経な同僚がうたぐりぶかい目で,「何処へ行くのですか」「どんな用件で行かれるのですか」とかしましくさえずる。この種類の人間は早耳で,その訓練よろしく勘で他人の行動をさぐり,自分の眼光のするどさを信じてもっともらしく人にふれまわる。私はこの種類の人間が大嫌いだ。
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