看護の椅子
看護婦さんのこと
有馬 頼義
pp.13
発行日 1966年11月1日
Published Date 1966/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912923
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本誌の昨年12月号のこの欄に,武者小路実篤先生がお書きになった文章を読んで,ひどくびっくりした。先生は謂わば私の師と仰ぐ方だが,80年間,一度も看護婦さんの世話になったことがないという。もともと御丈夫であることは知っていたが,全く驚いたというほかはない。
私の,50年に近い半生で,身辺に,看護婦さんのいなかった時は,無かったといっていいだろう。厳密にいえば,時間単位には,そういうことはなかった筈だが,感じとしては,そうなのであった。私は子供の頃病弱であった。私の家は比較的豊かな生活をしていたから,ちょっと病気になったりすると,医者の命令で派出看護婦会から誰かがやってきて私の生活を監視するのが常であった。しかし,感じとして,私が50年近い歳月を,看護婦さんと一緒に暮してきたように思うのは,ほかにも事情がある。私の母は,私を生んでから殆んど死ぬまで寝たり起きたりであったし,私の兄もぜんそくで,40歳で死ぬまで,看護婦さんがついていた。だから,私自身についてではなく,私の家に,看護婦さんが,いつもいた,といった方が正しい。
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