連載 看護の思想・9
職業調整について
青木 茂
1
1東京女子大哲学科教室
pp.56-60
発行日 1966年1月1日
Published Date 1966/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912597
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第1節 近代的職業観の成立
宗教的背景
紀州のみかん船で有名な「紀ノ国屋文左衛門」は江戸・元禄時代の幕府の御用商人だった。幕府の土木事業や鋳銭を請負って巨利を占めたことは御存知であろう。遊里において金銭を湯水のようにまきちらし,その豪遊ぶりもながく後世の語り草となった。くわえて,晩年の急速な没落ぶりといい,〈宵越しのゼニは持たねえ〉という淡白な江戸ッ子商人の典型として,その生涯は浪曲や講談となって民衆の間の英雄的存在とさえなった。
徳川藩幕体制も五代目将軍綱吉(在職1680〜1709)をむかえて,ようやく武断政治から文治的傾向の政治が中心となっていった。商工業が盛んとなるにつれて都市が発達(江戸・大阪・博多など)し,全国的交通網が整備し(参勤交替の恒久化によって),商業資本家の力は増大した。豪奢な〈元禄風〉の生活が町家や庶民のなかに行きわたり,商人は権力こそないが,金融や仲買いをとおして,つまり〈高利貸資本家・商業資本家〉として,武士階級に対しても大きな力をもつようになった。
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