想園
歯に思う
富川 篤郎
pp.67
発行日 1964年6月1日
Published Date 1964/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912278
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私は生まれつきあまり歯は丈夫だとは思っていなかった。大学生時代から歯痛で苦しんだのをおぼえている。卒業して初めて赴任した土地の開業の先生に,生まれて始めて金をかぶせてもらったが,これが未だに役に立っている。
それから応召,野戦に足かけ5か年,酒は一滴も口にしなかったので勢い,甘い物に集中する。ことに負傷して,かけつけた衛生兵に砂糖水をくれなんて贅沢な注文をして,一躍甘い物好きと喧伝されてしまってから,どこへ出かけても,まず甘い物を御馳走してくれる。「かんめんぽう」なんかも,砂糖のところだけ私のところへワザワザ持ってきてくれる。それでずいぶん歯を悪くしたと思われる。野戦では歯の根治療法はされなかったように思う。ひと思いに抜歯されるか—私も3本ほど抜かれてしまった—痛みをとめる応急の処置だけ。
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