随筆
近ごろ思うこと
山本 俊平
1
1京都大学
pp.197
発行日 1967年2月1日
Published Date 1967/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412200102
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最近学会又は学会と呼称されてもよいものが,限りなくというといい過ぎであるが,非常に増加してきた。現役の教授ともなれば関連学会に出席するだけでも大仕事であるに相違ない。医学が進歩するにつれて,それはいろいろの角度に細分されてゆき,狭く深くなるは当然のなりゆき上であろう。いろいろの角度に細分された医学の一部を中心にして志なり,興味なりを同じくする者たちが一つ所に集つて意見の交換を行つて,その学の進歩に努力することは立派で,人類の福祉につながる大きな問題であるから,学会の増加することに不満があろう筈はなく,反対に大いに賛成である。
一人の人間の能力には限界があると考えるが妥当であるから,八方に力を分散するよりは,狭いところに集中するが効果的であろう。若い学従がひたむきに一テーマと取組み,わき目もふらない姿は美しいものの一つである。と云つて勉強する者が皆"もぐら"のように脇もみず,己が道だけを突き進んで行つてもらつては困るような気がする。どんな狭い範囲の研究でも,そのまわりには他の研究分野があり,それらとの接点は多数に存在する筈である。これら接点を軽んずることなく,接点を通して他の研究分野の理解につとめ,他の研究分野の者にもこの接点を通して自分側を理解せしむることが必要ではないかと思う。それでこそ医学は強力に弾力をもつて進歩する。そのような努力がなければ所謂独走の諺はまぬがれず,馬車馬と笑われても仕方はあるまい。
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