鏡下咡語
触覚について思うこと
野村 恭也
1
1東京大学
pp.852-853
発行日 2001年11月20日
Published Date 2001/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411902448
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触覚は五感の中で最も早くより,他の感覚に先駆けて発達する感覚である。胎児のとき既に皮膚は触覚を介して母体からの,あるいは母体外からの様々な情報を感じ取っているものと思われる。触覚は他の感覚とも密接な関係にあり,そのことはことばの上からも伺うことができる。例えば味覚に関したtasteという語はThe Oxford English Dictionaryの記載をみると真っ先に“the sense of touch”とある。またtasteの語源は独語のtastenと共通しており,味覚というのは本来,単なる味を意味するだけの感覚ではないのであろう。日本語でも目にふれる,耳にふれる,鼻にふれる,舌にふれる,などというように全ての感覚に触の字が関わっているという(立川昭二)。いかなる感覚も刺激が触れなければ感覚器は機能しないから,これらは科学的な表現ともいえる。
耳鼻咽喉科は五感のうち視覚以外の感覚と関係がある。聴覚,嗅覚,味覚は学問的にも研究が進み,その成果は臨床に応用されている。一方,触覚はというと年老いて目が見えなくなり,耳が聞こえなくなり,匂いも味も分からなくなっても最後まで機能しており,極めて大事な感覚であるにもかかわらず,われわれはそれをどのように臨床と結び付けてよいのか見当がつかないのである。
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