想園
愚かなコンプレックス
小池 レイ
1
1中部労災病院
pp.65-67
発行日 1964年6月1日
Published Date 1964/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912277
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静かな町だった。重く古めかしい建物の並んだストラーダ(舗道)。葵ににた紅い花が,どこの家の窓にもベランダにも咲いていた。グレーの粗肌のコンクリート。つややかな鏡のような大理石,一見ロマーノ時代を思わせるレンガの建物,たてものをみればその町の芸術性を評価できるといわれ,また,町づくりは芸術だという人々を土台にしてできた町のすばらしさに目をうばわれた。シェクスピアの「ロメオとジュリエット」の舞台であるこの北イタリーの静寂の町に,ロマンティックな感傷と憧れを持ってたずねたこのラヴェンナ。いっぱい柔かい晩秋の陽がふりそそいでいた。映画「苦い米」で知られる水田地帯のポー河にそって車をとばし,朝早くついたのに町にはいってから出あったのは,半ズボンからカモシカのような足を出し大きなカゴを背おってペタルを踏みながらパンを配達する少年ひとりだけだった。
その日は日曜日だった。だからこんなに静かなのだろうか。どこの田舎町でも都会でもドメニカ(日曜日)というと店のブラインドは閉ったきりどこも休業で不便この上もない,なれるまでは。にぎやかなのは町角のカフェテラスが庶民の社交場となり,少数のレストランが食べはぐれた人や旅行者を迎える。人も車もすっかり郊外に出払い,町にいるのは貧乏人だけといわれるほど,ホリディをたのしむ習性を持っている。
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