——
ひとつの道に徹すること
山田 みどり
pp.66-67
発行日 1964年1月1日
Published Date 1964/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912124
- 有料閲覧
- 文献概要
くるくると踊りながら見たこと感じたことをお話いたしましょう。最近みる絵画,書,彫刻,陶器,舞踊の中には重量感が感じられないのです。それに比べて古代の作品には胸をおさえつけられるような力強さときびしさを感じ涙さえ出て来ます。なぜでしょう?私はいつも自分に問います。日本人は(われらの先祖)土着民族であり,すぐれた農耕民族であります。その人々の生活から生まれた作品にはおのずと,どっしりした安定感と刃物ですぱっと切り取ったような鋭さが,互いにバランスを保って暖かく美しいものにして,今日のわれわれに残してくれています。そのような血を受け継いでいるわれらがとぎすましたかぼそさと,安易さばかりが目についてちっとも心に響いてくるものがないのです。なぜでしょう。私は思うに昔の人は詩人が多かったように思います。今の作品の中には,その詩がありません。一つの物をじっとみつめ,掘りさげて行く根気さ,そして大きな自然の中で虚空に向かって独創的な考えをえがいて行く。こんなすばらしく楽しいことがあるでしょうか。
無から有を作り出す尊さ,それをやる人,それが専門家なのです。一つの道に徹することが専門家になることです。芸の道を行く者は,芸人になり切ること,芸人根性に徹することです。どうしたら一人前の芸人になれるのかといえば,無から有を作り出す,独創性の豊かなものを生み出すことです。自分だけの芸を作り出す人です。
Copyright © 1964, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.