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血のふえる癌とふとる癌
渋沢 喜守雄
pp.64-67
発行日 1962年10月15日
Published Date 1962/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911758
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癌の患者は,はたから見ても一目で見当のつくような,ツチケ色の,ひどく血色のわるい顔いろをしています。これは貧血があるためばかりではないでしょうが,癌のしまい頃には大多数の患者に,貧血がみられるわけです。英国のLeeds大学とShefield大学にいるGreenは溶血性貧血がおこると考えています。癌の細胞から作られる自家抗体で,患者の血球がこわれることを,ご承知のクームス(Coombs)テストでしらべています。わが国の癌研の中原和郎先生(現在は癌センター所長)は,癌組織から,トキソホルモンという物質が産出され,この物質は鉄をふくむ蛋白の合成を阻害する,それで血球の形成がわるく,貧血になるというような考え方を発表しておられます。この両大家の説で,癌の貧血が全部,理解できるかどうか,これからくわしく調べなくてはならないでしょう。私たちがよく見る例をあげますと,ヤケドや大きな外傷や尿毒症や強い感染症などの患者では,十分に治療し,輸血をしておっても,貧血になる傾向があります。これは誰でも思いあたるでしょう。それでは,こうした患者の貧血はどうして起こるのか,それはもちろん決して簡単ではなく,血球がこわされるという方面と,血球が新しく作られるという方面とにわけて考えなくてはなりません。と同様に,癌の貧血でも,血球の作られる量とか速度とかをも,あわせ考える必要があるでしょう。
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