教養講座 世界史の女性像・5
中世ヨーロツパの女性たち(2)
井上 一
1
1横浜市大
pp.26-28
発行日 1958年6月15日
Published Date 1958/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910619
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領主と農民
前の号で中世ヨーロツパの誕生とそこに生きた女性たちについてお話しました。この時代の代表者は武士として活躍した貴族で,これは当時諸民族の間の戦争が絶え間もない,物騒な世の中であつたので,彼らが世間で一番たよりになる存在であつたためといえます。彼らは国王とか大貴族からその領地をわけてもらい,その代りにそれらの君主には忠誠を以て奉仕するという義務を持つていました。このような土地を仲介とする社会制度を封建制度と言い,従つてヨーロツパ中世を封建時代とも言います(現在私たちが<封建的>だといつて攻撃するものとは大分意味が違つていますが,このような時代に生れた,身分や階級が固定したものであるという観念を封建的だというわけでしよう)。
しかし武士一貴族のはなばなしい活躍は,当然彼らの領地(莊園)を耕す農民によつてささえられていました。これらの農民は<農奴>とよばれ,貴族の土地を借りて小作し,自分達の家族を養うと同時に小作料を払い,また貴族たち領主の家族のための耕地を週に何日か耕作したり収獲したりする労働をしなければなりませんでした。更に農奴は自分たちの領主の土地から自由に移転することができず,当時のことわざに<領主のいない土地はなく,土地を持つていない領主はいない>というのでわかるように,農民の生活は今日のものよりももっと窮屈なものでした。
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